経営理念の刷新とKPIマネジメントの導入で、新たな未来へ向かう組織へ
支援内容 |
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業種 | 産業機器 |
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事業内容 | 圧縮機・冷凍装置・ヒートポンプなどの設計、製造、販売 |
課題(before) |
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実施したこと |
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成果(after) |
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2021年11月からコベルコ・コンプレッサ株式会社(以下、コベルコ・コンプレッサ)とオーツー・パートナーズは会社の新たなビジョンを策定するためのプロジェクトを開始しました。コベルコ・コンプレッサは、圧縮機・冷凍機・ヒートポンプなどの設計、製造、販売などを専門とする業界のリーディングカンパニーです。汎用圧縮機では国内トップレベルの高いシェアを持ち、39年間にわたり黒字経営を続けています。安定した経営基盤を持つコベルコ・コンプレッサが外部のコンサルティング会社に支援を求めた理由とプロジェクトの成果について、コベルコ・コンプレッサの取締役執行役員・笹井誓氏に聞きました。
2兆円企業から独立し500億円規模の会社へ統合
コベルコ・コンプレッサの主力事業は汎用圧縮機の設計、製造、販売です。2021年7月に、株式会社神戸製鋼所(以下、神戸製鋼所)が保有していた汎用圧縮機の製造事業を、それまで汎用圧縮機の販売に特化していた完全子会社のコベルコ・コンプレッサに統合しました。この「製販統合」により、汎用圧縮機事業全体での顧客ニーズ共有と、高付加価値な製品開発、質の高いアフターサービスの提供を進めています。
2022年1月には産業用貫流ボイラ市場でNo.1のシェアを持つ三浦工業株式会社(以下、三浦工業)の出資を受け、神戸製鋼所100%出資の会社から、神戸製鋼所と三浦工業の合弁会社へと体制を変更。もともと「蒸気駆動式圧縮機」を共同開発するなど提携関係にあった両社は、コベルコ・コンプレッサを共同出資化するのを機に、新たなシナジーを生み出すための一歩を踏み出しました。
コベルコ・コンプレッサが抱えていた課題
神戸製鋼所の一部門とコベルコ・コンプレッサの一体化、そして株主構成の変化という大きな組織変更を経験したコベルコ・コンプレッサ。当時、社内はどのような状況にあったのでしょうか。
笹井誓氏(以下、笹井氏)
「製販統合で新しい会社になり、組織全体に将来への不安が感じられました。また、この統合で神戸製鋼所からコベルコ・コンプレッサに転籍した人たちの中には、グループ会社で処遇が悪くなるんじゃないかという心配もあったようです。一方でもともとコベルコ・コンプレッサにいた社員は、親会社から大勢が異動してきて、自分たちの存在感が薄まってしまうんじゃないか、そのような不安を抱えていたと思います」
神戸製鋼所の企画部門に長く勤めていた笹井氏も、コベルコ・コンプレッサに転籍してきた一人です。コベルコ・コンプレッサの汎用圧縮機事業は、国内ではトップクラスのシェアを誇り、さらに39年間の黒字経営という基盤があります。今後も毎年3〜5%の市場成長が見込まれ、ヒートポンプなどの事業には飛躍的な成長の余地があります。笹井氏はコベルコ・コンプレッサの将来を「安定性と成長性をあわせ持ち、面白みがある」と捉え、自らの決断で異動しました。
「神戸製鋼という2兆円企業のひとつの部門から、コベルコ・コンプレッサという400-500億円規模の会社になりました。安定した事業基盤がありつつ、ベンチャー企業のように仕事ができる可能性がある。身軽に動ける分、多くのチャレンジができるのではないかと考えました。我々の事業には未来があり、新たな挑戦ができる基盤がある、その面白さや楽しさを社内の皆にも伝えられるといいんじゃないかと思っていました」(笹井氏)
オーツー・パートナーズを選んだ理由
製造部門と販売部門、そして新しい株主の三浦工業が協働することで、これまでよりも明るい未来を描ける。その目標に向かって、いろいろな背景を持つ人たちがともに進んでいくためには、会社のビジョンや戦略を全員で共有することが不可欠です。同じ思いを抱いていたコベルコ・コンプレッサの代表取締役社長・岩本氏や経営企画部のメンバーとともに検討を進め、オーツー・パートナーズに長期計画でのコンサルティングを依頼するにいたりました。
「将来の”ありたい姿”を描くためには、まず自分たちの実力をあらためて認識しなければなりません。そのためには第三者に入ってもらったほうがいい。たとえば私は汎用圧縮機事業に直接かかわってこなかったので、会社をある程度客観的に見られます。でも長年この事業に携わっている人にとっては、強みや良さが当たり前のことになってしまって、見えづらくなると思うんです。外部のコンサル会社に力を借りれば、他社事例やデータなどをもとにした客観的な意見を述べてもらうことができます。第三者の立場なので嫌われ役にもなってもらえる、という期待もありました」(笹井氏)
実際にコンサルティング会社を探し始めてからは、大手のコンサルティングファームとも比較検討した結果、オーツー・パートナーズに依頼することを決定したといいます。
「オーツーさんに依頼した決め手はふたつあります。ひとつは、エンジニアリング経験者や事業会社出身の方が多いので、メーカーである我々の独自の視点や文化を理解してくれそうだったこと。社員の気持ちがカギとなるプロジェクトなので、やらされている感を極力おさえ、一緒に前に進むという意識を持てるようにしたかったからです。ふたつめは提案内容が的を射ていたこと。ビジョンを刷新することがゴールではなく、ベクトルをしっかり合わせ、皆でマインドを変えていきましょうと強調されていました。まさにそれは私たちがやりたかったことだったので、オーツーさんに依頼する大きなポイントになりましたね」(笹井氏)
「Be Oneプロジェクト」始動
2021年にスタートしたプロジェクトの名前は「Be Oneプロジェクト」。いろいろな背景を持った人がひとつになって新しいコベルコ・コンプレッサとして運営を進めていこう、という想いが込められています。
以下はプロジェクトの概要です。
- 現状把握
- 変革ビジョンの確認
- ビジョン実現に向けた戦略策定
- 勝ちシナリオの定義
- 重要施策定義
- 数値目標化
- ロードマップ化
プロジェクトの最初の2か月は、変革ビジョンの理解を深めることに費やしました。新しいビジョンを現場の社員と共有するためには、トップマネジメントのコミットメントが不可欠です。代表取締役社長の岩本氏にもかなりの時間を割いてもらい、対面でのヒアリングやワークショップを行いました。この過程で見えてきたのは、まずは企業理念の見直しから始めたほうがいいということ。結果として生まれたのが、コベルコ・コンプレッサの新しい企業理念「空気と熱で、未来を変える。」です。
「当初、想定していたアウトプットは『ビジョン構想書』でしたが、まず企業理念を見直すところから始めました。それからKCC Wayと名づけた行動指針、2030年ビジョンの定義、それらをさらに具体的な戦略の構想書に落とし込んでいきました。言語化と合意形成には少し苦労をした記憶があります。各自がいろんな意見を持っていますし、抽象的なことを整理して形にするのは難しい作業です。ワークショップではオーツーさんに我々の想いを言語化して文字にしていただいて、それに細かく注釈をつけてもらいました。そこを丁寧にやったことで理解をぶらさずに関係者と共通認識を持てるようになったと思います」(笹井氏)
プロジェクトにはもうひとつの狙いもありました。
「これまでの経営者の考えや方針は、単発的な発信になってしまっていました。それを取りまとめて『KCCの羅針盤』をつくり、今後迷うことがあればこれを読めばいい、という道しるべにしたかった。会社の方向性を形にして、新しく入社した人はそれをベースに自分のPDCAを回していく、というサイクルを作りたかったんです。そのためにも、まず経営陣が会社全体の状況をしっかりと把握し、自身の役割がなんなのかを明確に理解しなければなりません。ここには時間をかけるべきだと思っていましたし、オーツーさんにも手間をかけていただきました」(笹井氏)
社員から「毎年やってほしい」と言われた共有活動
製造業をとりまく環境の変化は非常に速く、原材料の高騰や人材不足などを含め多くの課題が山積しています。会社が次の50年100年と継続していくためには、経営陣だけではなく社員一人ひとりが「自立」と「自律」の両方を実現することが理想的と笹井氏は話します。各部署が自発的に考えて行動するには、目指すべき目標が明確であることが必要です。そのためビジョン/事業戦略をKPIに落とし込み、アクションプランを策定しました。
次に行うべきは、会社全体への共有とマインド変化の促進です。共有活動(チェンジマネジメント)は、社長自身がメッセージを発信すること、それを執行役員やライン長が現場にきちんと展開していくというアプローチをとりました。具体的には、笹井氏が管轄する経営企画部、ライン長、オーツー・パートナーズの担当者で2か月をかけて全国の36箇所を訪れ、新たなビジョン/事業戦略の概要、それを行う理由や目的などを説明して回ったのです。
「現場とビジョンを共有するには、トップダウンだけではなく、中間層がビジョンを理解して社員を束ねていくことが欠かせません。それには中間層がビジョンについて自信を持って話せる、というところまで持っていきたかった。時間をかけて説明して、皆にも自分で考えてもらう、この繰り返しです。オーツーさんには、各レイヤーの社員と細かくコミュニケーションをとったり、作業や手間の部分を引き受けていただいたりと尽力していただきました。まだ理想の状態に到達しているわけではないですが、かなり進歩したと感じています」(笹井氏)
現場に足を運び、圧倒的な当事者意識で周囲を巻き込みながらビジョンの共有に奔走したオーツー・パートナーズ。実はコベルコ・コンプレッサはこれまで外部のコンサルタントに依頼した経験が少なかったため、当初は社員の間で戸惑いもあったといいます。
「最初は誰この人?とはなりますよね。ですけどオーツーさんは上から目線で物を言わないこと、現場の負荷を減らすために社員の作業を引き受けて自ら手を動かすこと、そういったことを重ねていくうちに、自然と受け入れられていったのではないでしょうか。プロジェクトのスコープ外のこともオーツーさんに相談に行く社員もいましたし、とてもよい関係が築けたのではないかと思います」(笹井氏)
プロジェクト後の変化
全社アンケートの結果では、経営方針の理解に関するプラス評価が9割を超え、さらには現場との共有活動に対して「やって良かった」と肯定的な意見が非常に多く見られます。
「オーツーさんにアンケートの設計と評価もお願いしました。アンケートでは定性的な評価を試みたのですが、結果を目にして、やっと成果への実感がわいてきましたね。現場の皆の経営方針への理解度が明らかに深まりました。この活動には執行役員の手間も相当かけたので、このことの重要性を理解してもらえたのは成果のひとつですね。社員には言わなくても分かってほしいではなく、軸を共有して何度でも伝えるところが重要だという共通認識ができました」(笹井氏)
KPIマネジメントにも大きな変化が現れています。これまでは年に一度事業計画を策定し、半年ごとに大きく更新するというプロセスで、そこにはかなりのマンパワーが投入されていました。現在はプロジェクトで定義したKGIとKPIを社内に展開し、それを月次の「予算進捗ワークショップ」というマネジメント会議で進捗をフォローするという運用に変更。毎月KPIを追うようになったため、半年ごとの大きな更新は不要になりました。それだけでなく全体を見渡して各KPIを確認することで、やるべきことが明確になり、状況変化に対して迅速かつ柔軟な経営判断をできるようになってきたそうです。
「戦略が上滑りしないという状況を少しずつ作れています。全体を俯瞰して振り返るので、おのずと優先順位が明らかになりますし、諦めずにKPIを達成していくという意識が非常に強くなりました。事業を動かす過程で、設定したKPIがしっくりこないと分かったものもあります。ちょっと違うなと感じたときに、自分たちでそれを変え、より適切なKPIを置こうという、自立的な動きの兆しも見えてきたところです」(笹井氏)
今後への期待
現在はビジョンの共有活動を継続している段階です。これまでのオーツー・パートナーズとのプロジェクトに対しては、現場の想いや考えを理解しながら、根気強く物事を進めていく点を高く評価しているといいます。ここまでのプロジェクトを振り返って、また今後に向けてのコメントをいただきました。
「ビジョンの共有という難しい試みの中で、事業の主役である現場の思いを汲み取って、粘り強く進めてもらったことに感謝していますし、一定の成果を挙げられたと捉えています。一方で、今後は第三者目線で厳しいことを言ってもらう局面も訪れると思います。硬軟織り交ぜながら、当社だけでは難しい部分のサポートをこれからもお願いしたいですね」(笹井氏)
この事例で支援したサービス
大企業から中小企業、地方のスタートアップ企業まで、
幅広い支援事例から代表的なものを紹介いたします。
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