3カ月の集中トレーニングで、実務未経験から樹脂部品エンジニアへ
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パーソルクロステクノロジー株式会社は、国内最大級の人材サービスグループ、パーソルグループでテクノロジーソリューション事業を担う企業です。自動車や機械、ITシステム、IoT、モビリティサービスなどの領域で人材派遣や請負サービスを提供しています。2022年には、オーツー・パートナーズと共に、自社エンジニアのリスキリング(学び直し)を目指した「仮想プロジェクト」を始動。3カ月間の実践型教育で、即戦力の樹脂部品エンジニアを育て上げてきました。
【お客様からのコメント】
「実務未経験者を3カ月で樹脂部品エンジニアにするという、前代未聞のプロジェクトへの挑戦でした。前例がなく、手探りで進めなければならない中、自動車樹脂部品のプロセス・技術に詳しく、人材育成サービス実績のあるオーツー・パートナーズの存在は、とても心強いものでした。トライアルでは講師役やクライアント役を引き受けてくださり、埼玉の上尾拠点に毎日通っていただきました。しっかり伴走してくれたオーツー・パートナーズには、感謝しかありません。」
「3カ月間、仮想プロジェクトを受けたことで、樹脂ならではの専門用語をしっかり理解してから現場に入ることができました。私はずっと車が好きだったので、憧れていた樹脂部品エンジニアとして、新しい道へ踏み出せたことがうれしいです。お客様から頼りにされることも増えてきて、やりがいを感じています。」
◆仮想プロジェクト講師
「樹脂部品エンジニアとして30年やってきた経験があるので、最初は正直、『3カ月で一人前にするなんて無理だ』と思っていました。しかし講師役を引き受けてからは、参加者の驚くような成長ぶりに喜びとやりがいを感じるようになりました。予定通りにプログラムが進まないなど苦労することもありますが、卒業生を送り出した後は、『楽しかったな』という感想しか出てこないですね。」
【ご支援概要】
- 「実務相当の経験獲得」を目的とした実践型教育プロジェクトのカリキュラム企画・作成・運用支援
【ご支援先】
パーソルクロステクノロジー株式会社
パーソルクロステクノロジー株式会社は、国内最大級の規模を持つ総合人材サービスグループ、パーソルグループの一員です。グループ全体で年間約5万500社との取引(2023年度実績)があり、働く人と企業、双方の未来を支えています。その中でテクノロジーソリューション事業を担っているのが同社です。自動車や家電、ロボット開発、ITシステム開発、AI導入支援などの分野で人材派遣や請負サービスを提供し、クライアント企業の課題解決に取り組んでいます。
担当プロジェクトマネージャー
佐野 直人
スタンフォード大学大学院卒。ウシオ電機にて製品設計(主にエレキ)・要素技術開発に従事。IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)にてコンサルタントへ転身し主に製造業の各種業務改革プロジェクトや、モジュール化・プラットフォーム化を中心とした設計改革プロジェクトを推進。オーツー・パートナーズ参画後は、製品設計の中身まで踏み込んだエンジニアリングチェーン改革・設計業務改革を主に担当する。
日本の自動車産業を支えてきたエンジニアを、次のステップへ導きたい
宇宙産業、航空事業、ITなど、幅広い領域で人材サービスを提供する同社ですが、中でも特に強みを持つ分野が「自動車」です。これまで、エンジン設計や部品開発の現場へ多くのエンジニアを送り出し、日本の自動車産業を支えてきました。
ところが周知のとおり、今自動車業界は大転換期を迎えています。世界中でEV車が台頭し、エンジン車の市場は縮小傾向に。エンジンがバッテリーに置き換われば、在籍する多くのエンジニアが仕事を失ってしまう可能性があります。その危機感が、今回のプロジェクトをスタートするきっかけだったと、技術開発企画部 技術管理Gの緑川氏は振り返ります。
「当社のモットーは“エンジニアファースト”。エンジニアに楽しく、幸せに働いてもらうことを一番大切にしています。しかし、今のままでは、日本の自動車産業を支えてきてくれたエンジニアの道が閉ざされてしまうかもしれません。そうなる前に『新しい道を示したい』という声が、当社の役員から上がってきました。」
そこで出てきたのが、「樹脂部品開発のエンジニアを社内で育てる」というアイデアでした。エンジン車市場の縮小は避けられない流れですが、自動車自体がなくなるわけではありません。むしろ、燃費の向上や環境負荷軽減の観点から、内装・外装部品の樹脂化が進んでおり、クライアント企業からも、樹脂部品の設計ができる人材を求める声が増えてきました。しかし、樹脂部品エンジニアは人数が少なく、クライアントのニーズを満たす経験豊富な人材は多くありません。
「ひと昔前まで、『とりあえずチームに入って、やりながら覚えてくれればいいよ』と言ってもらえた時代もありましたが、最近は、開発時間がどんどん短縮されているので、『手取り足取り教える必要がない、自ら動ける人材がほしい』と言われるようになってきました。」(緑川氏)
そこで、「即戦力になれる樹脂部品エンジニアの育成」を目指したプロジェクトを立ち上げるべく、以前からつながりのあったオーツ―・パートナーズに協力を依頼することになりました。
「担当の佐野さんには、『座学ではなく、自ら考えて動けるエンジニアを育てる実践型の教育プロジェクトをつくりたいんです』」と相談しました。樹脂部品エンジニアは今後ニーズが増えてくるはずなので、社内で育てることができたら、当社の新たな強みにもなると考えました。」(緑川氏)
オーツー・パートナーズの専門的知見を活かし、二人三脚でプロジェクトをスタート
オーツ―・パートナーズには自動車業界出身の元エンジニアのコンサルタントが在籍しているため、「共にプロジェクトをつくり上げるパートナーとして安心できる存在でした」と緑川氏は語ります。
「樹脂部品の開発には、素材の種類や成形方法、金型の知識など、幅広い知見が必要です。その点、オーツー・パートナーズは大手自動車メーカーの内装部品の開発プロジェクトを担った実績をお持ちですし、樹脂部品エンジニアの仕事内容にも明るいので、とても頼りになりました。」
担当コンサルタントの佐野は、プロジェクトにアサインされた樹脂部品に詳しいオーツー・パートナーズのメンバーとともに、教育プロジェクトの原案を作成しました。仮想のクライアントやチームリーダーとやりとりをしながら、3カ月で樹脂部品開発の仮想プロジェクトを遂行する実践型教育プログラムです。樹脂部品開発の一連の流れと全く同じように体験することで、座学だけでは得られない対応力を獲得できます。
「佐野さんからいただいた原案のレベルが非常に高く、助かりました。社内の樹脂部品エンジニアにも見てもらいましたが、『樹脂開発の仕事の流れをよく分かっている』と言われました。ミーティングでも、技術的な観点からの鋭い意見をたくさん出していただき、『さすがだな』と思いました。」(緑川氏)
現場に入ったその日から、自立的に動けるエンジニアを目指して
同社が目標としていたのは、「実務経験相当」を得られる教育です。そのためには、一般的な教育プログラムにはない、思い切ったやり方が必要でした。「この仮想プロジェクトでは、一つの製品を完成させるまでのリアルな現場を再現するため、現場で実際にかかわる、完成車メーカー(OEM)の担当者、金型メーカー、レビュワー、相談役や報告先である設計のチームリーダー役などを用意し、実際のプロジェクトで発生するであろうやりとりをしてもらうようにしました。」(緑川氏)
また、シナリオには、遭遇しやすいトラブル、クライアントからの急な仕様変更など、樹脂開発の現場でよく起こる「あるある」への対応も組み込みました。そして、2022年の10月に1回目のトライアルを実施。講師役や品質を検討するレビュワー役などは、オーツー・パートナーズのメンバーが担当しました。
「オーツー・パートナーズの方には、講師役として当社の上尾拠点に毎日通っていただき、対面で参加者とやり取りしていただきました。知識がないと任せることができない役ですし、丁寧にやっていただいたので本当に感謝しています。」(緑川氏)
一方、仮想プロジェクトの実施は同社にとっても大きな挑戦であり、社内では物議を醸すことになりました。というのも、3カ月もの間、自社エンジニアに一切の業務をさせず、学びに集中してもらうことになるからです。当然、その間の売上はゼロ。それでいて1回の実施で育てられる樹脂部品エンジニアはわずか5名です。それだけの時間とコストをかける覚悟も必要でした。 「正直、最初のうちは現場からあまりいい顔はされませんでしたね(笑)。『本気でこれを実行するつもりか』と問われたこともあります。でも、これが成功すれば、会社の未来も、エンジニアの未来も、必ず明るいものになります。大きな意義のあるプロジェクトだという自信があったので、根気よく対話をし、理解を促していきました。」(緑川氏)
大切にしたのは「樹脂をやりたい」という本人の意志
2回のトライアルまではオーツー・パートナーズが伴走し、その後、さらに改良を重ねて仮想プロジェクトは完成しました。そして、2023年の4月から本格稼働することになり、運用を内製化。オーツー・パートナーズが担当していた講師役は、樹脂設計30年のベテラン社員が担当することになりました。しかし、引き受けるまでには葛藤もあったと言います。
「最初に仮想プロジェクトの話を聞いたときは、『3カ月で育てるなんて絶対に無理だ』と思いました。というのも、私はこれまで若手の育成もやっていたのですが、一人前にするまで3年はかかっていたからです。しかし、人を育てることの面白さは知っていましたし、緑川さんから熱心に誘っていただいたこともあって、講師役を引き受けることにしました。」(仮想プロジェクト講師担当社員)
プロジェクトには、金型やフレーム部品、内装部品、制御システムなどの設計経験を持つ、パーソルクロステクノロジー所属のエンジニアが参加することになりました。誰でも参加できるわけではなく、一定のスキル要件はあります。ただ、何より重視するのは本人の『意志』でした。
「『やれ』と言われてやるのと、自分が『なりたい』と思ってやるのとではモチベーションが違います。だからこそ、今後のキャリアを見据えて自ら『樹脂のスキルを得たい』という社員に、優先的に入っていただくことにしました。」(緑川氏)
仮想プロジェクトがスタートすると知り、真っ先に手を挙げたというエンジニアの嶋田氏は、もともとワイヤーハーネス(※1)の設計者でした。当時を振り返って、こう語ります。「私は車が好きなので、みんなが目にするインパネ(※2)の設計をずっとやりたいと思っていたんです。だから、仮想プロジェクトの話を聞いて『願ってもないチャンスだ!』と思い、挑戦することにしました。」(嶋田氏)
※1自動車の電装部品。車内のさまざまな電気装置(エンジン、ライト、センサー、エアバッグ、オーディオシステムなど)に電力や信号を供給するために使われる。
※2インストルメントパネルの略。自動車の運転席前方にあるダッシュボードの一部。メーターやスイッチ、エアコン操作、ナビなどが集約され、運転情報の表示や各種操作を行うための重要な装置。
コアな質問にも堂々と答え、お客さまから頼られる存在に
試行錯誤を重ねてスタートした仮想プロジェクトは、2024年8月の時点で5回目が終了。これまでに約20人の樹脂部品エンジニアを送り出してきました。緑川氏は、「苦労しましたけど、やって良かったです」と笑顔を見せます。
「一番うれしいのは、参加者の成長を感じられる瞬間ですね。例えば、設計内容を講師役やレビュワー役にチェックしてもらう『レビュー』というフェーズが3回あるのですが、1回目は、まだレビュワーからの指摘にパッと答えられなくて、あたふたするんですね。でも2回目、3回目のレビューになると、きちんと自分の言葉で返答できるようになっている。ちょっとイジワルな質問にも、慌てず堂々と答える姿を見て、感激しました。」(緑川氏)
プロジェクトの講師役も、「やってみると、楽しかったという想いが大きいです」と振り返ります。「プロジェクトが進むにつれて、参加者がどんどん成長していくのが分かるんです。レビューのとき、私が教えた樹脂の専門用語を使いながら、自分の文脈で説明している姿を見て、『ああ、きちんと身についているんだな』と思って、胸がいっぱいになりました。」
クライアントからの評判も上々です。「『実務未経験と聞いていたけれど、3カ月でこれだけの人材を育てたのは本当にすごいですね』と言っていただきました」と、緑川氏。第1回目の参加者であり、すでにクライアント先で樹脂部品エンジニアとして活躍する嶋田氏も、こう語ります。
「今の現場で、『なぜこのような仕様になったんですか?』という、けっこうコアな質問をいただいたことがあったんです。でも仮想プロジェクトで経験したことを活かして、自信を持って答えることができました。その後、『このミーティング、一緒に出てもらえませんか』などと声をかけられるようになり、頼られているんだなとうれしくなりました。今、仕事がすごく楽しいです。」(嶋田氏)
最後に、みなさんに今後の目標について伺いました。
「仮想プロジェクトはすでにスタートしていますが、まだ満足はしていません。改善したいこと、やりたいことはどんどん膨らんでいますので、もっと良いものにしていきたいですね。ただ、いきなり全部を変えようとすると無理が出ますので、一歩一歩、焦らずにやっていきます。」(緑川氏)
「樹脂部品エンジニアはまだ少ないので、私がその第一人者になれるよう、努力を続けていきます。また、このプロジェクトを受けたことで、伝える楽しさ、人が育つ楽しさも知りました。いつかは自分が育てる側の立場になれたらいいなとも思っています。」(嶋田氏)
「今のところ、仮想プロジェクトの講師役は私一人です。なので、今後の目標は「第二の私」になってくれる後任の講師役を育てること。それをやってから社会人を終えたいですね(笑)。そのために、今は私の持っているものを、すべて仮想プロジェクトに注ぎ込んでいきます。」(仮想プロジェクト講師担当社員)
この事例で支援したサービス
大企業から中小企業、地方のスタートアップ企業まで、
幅広い支援事例から代表的なものを紹介いたします。
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