【執筆論文転載】AIを扱える高校生を育成する”やまがたAI部“のご紹介
- ものづくり
目次
1 はじめに
日本のデジタル競争力が低下している。国際経営開発研究所(IMD)が毎年発表している日本のデジタル競争力ランキングに於いて, 日本はTop20にも入れない状況が続いているのである。この事実はメディアなども取り上げることが多くなってきており認知が進んできているが,なかなか改善の兆しを感じられないのが実情である。令和3年版の情報通信白書[1]によると,日本がデジタル化になかなか踏み出せない要因は,「情報セキュリティやプライバシー漏えいへの不安」(52.2%),「利用する人のリテラシーが不足しているから」(44.2%),「デジタルでの業務利活用が不十分」(36.7%)などが続いており,セキュリティに対する不安感が最も大きいが,総じてデジタル技術への理解者が少ないことが読み取れるような結果となっている。
デジタル技術の理解者を増やすために,よりデジタル技術を身近なものとして広めていく必要があるが,障壁が大きいように感じている。PCの普及率が50%を超えてから20年程経つが,いまだにPC自体に苦手意識を持つ人も多い印象を受ける。しかしそういう人にも使い方を1から教えると大概の人は仕事に活用することができるようになる。つまり,難しそうという先入観がデジタル技術普及の障壁になっていると筆者は感じている。
社会ではAI導入がブームとなっているが,AIを学ぶハードルはさらに高くデジタル技術の障壁に加え背景としての数学の難しさやプログラミングが障壁となり,こうした技術を広く普及するのはなかなか難しいと思いがちである。しかしその基本的な考え方は数学やプログラミングの知識が乏しくとも習得できるものであり,ハードルを適切に取り払うことでより身近に活用できるものである。この「難しいもの」という先入観やハードルを取り払うことがデジタル/AI技術を普及させることにとても大きな意味を持つと考えている。そして特に若年層人材には,「難しい」先入観を持たずにデジタル/AI技術に取り組めることが将来的により大きな意味を持つと考えている。
今回ご紹介するやまがたAI部では高校生・高専生をターゲットとし,前述したような情報工学や数学の知識等,デジタル/AI技術に関するハードルをできるだけ除外したうえでデジタル/AI技術を学んでもらう教育活動を実施している。本活動を通じて地方からデジタル/AI人材を輩出することで,日本のデジタル技術の底上げに貢献し,またハイレベルなAI人材を輩出できることを目指し,日々活動している。本稿ではその初年度活動である2020年8月~2021年3月の活動内容を中心に紹介させていただき,その活動から得られた高校生の可能性やAI教育の要点について考察する。
2 やまがたAI部の活動目的
まずやまがたAI部が目指すビジョンの全体像について紹介させていただく。やまがたAI部のミッションは”デジタル人材の創出による山形県のGDP向上,および日本のデジタル競争力UP”と設定している。特に最重要視しているのが,“若年層AI人材の継続的な輩出”であり,その実現に向けて高校生向けAI部によるAI教育を推し進めている。高校生向けAI部では,座学のみならず高校生と地元企業の交流の場を設けることで互いに刺激を与えながら,ゆくゆくは地元企業がAI部の卒業生の受け皿になる事例が作っていければ,地方としてAI/デジタル人材育成をさらに盛り上げられるものと考えている。
この活動の主体は“やまがたAI部運営コンソーシアム”として2020年10月に設立したが,高校生向けAI部は少しでも早く展開できるように,正式なコンソーシアム設立前の2020年8月からスタートし,現在は2年目に突入している。コンソーシアムへ運営できる体制を目指し,日々議論を重ねている。高校生への学びの提供からスタートし,AI人材を起点とした地域創世モデルへと昇華させることがコンソーシアムの当面の目標である。
3 やまがたAI部カリキュラムの方針
本節以降では高校生向けのAI部に絞って説明をしていく。AI技術はもとより情報技術に触れることが少ない高校生向けの活動では,基礎知識を身に着ける”カリキュラム”は非常に重要なものとなる。実際にこの活動でも基礎知識を習得する座学や演習パートである”基本プログラム”や”ハイレベル座学”と,テーマに取り組むことで知識を使えるものとして習得するための実習パートである”企業訪問”や”AI甲子園”に分けてカリキュラムを用意した。詳細は次節で説明するが,検討したカリキュラム方針についてまずに説明する。
やまがたAI部のカリキュラムの考え方は,AIを学びたい高校生にできるだけハードルを除去した状態で学習してもらうことが肝要と考えているため,カリキュラムは下記のような配慮の基作成されている。
- PCに慣れていない人のために,PC操作も解説し適宜
習熟度を確認する。- プログラミングに慣れている高校生は少ないため,可能な限りノンプログラミングを軸にAI構築を実施する。
- AIの背景の高度な数学は高校生には難易度が高いため,高度な数学にはできるだけ触れずにAIを解説する。
- 高校生の探究心を阻害しないように,学習を深めたい人向けの情報も共有する。
このような配慮に加え,地元企業の協力により伴走しながら取り組むことを実施している。このようにして初学者でも意欲があれば学んでいける点がやまがたAI部のカリキュラムの大きな特徴と考えている。またもう一つの特徴として,ベーシックなサポートを強化しつつも演習および企業訪問では実データを用いた実践的な課題を用意することで,データ解析の勘所を掴んでもらい,実践力を磨くことを狙っている。このように学習のハードルは可能な限り除去するが,内容は実践的という方針でカリキュラムを整備した。
4 2020年度のカリキュラム概要
それでは前述の方針の基2020年度に実施したカリキュラムの概要を紹介する。2020年度は各学校に”ものづくりAIコース”と”スポーツAIコース”の2つのコースに分かれて活動を実施した。活動の前半は両コースとも”基本プログラム”にてAIの基礎知識と構築方法を学んでもらい,またそれぞれのコースに合わせて”企業訪問”を実施し,現場でのAI実用に関する学びを提供した。活動の後半は,コースごとにテーマ課題に学校毎で取組み発表する”AI甲子園”に向けた活動を実施した。さらにハイレベルな学びを希望する部員には”ハイレベル座学”として追加講座を提供した。以下でそれぞれの内容の詳細について説明する。
■基本プログラム
AI学習のハードルをできるだけ除外するために,基本プログラムには通常のAIの知識や実装方法のほかに,PC操作やセンサー設定方法,表計算ソフトの使用方法等も含めてサポートしつつ,AIに触れてもらうプログラムとなっている。特に数学的な基礎理論やプログラミングの理解は,高校生の履修範囲から見るとやや高度なため,数学的・プログラミング的な要素はできるだけ排除し,実装もノンプログラミングで実装できる環境を利用している。その中で学びを深めたいという生徒・学生には基礎理論やプログラミングも学ぶことができるように参考情報を共有しつつ展開している。さらに学びたい生徒にはハイレベル座学という枠組みでより高度な講座も用意している。
■企業訪問
やまがたAI部の大きな特色の一つであるのがこの企業訪問だと考えている。AI技術が社会でどのように使われているのか,企業訪問にて説明を聞き実例を学びつつ,現場の課題に対してどのようなAI活用方法が考えられるかをディスカッションすることでAI知識の応用力を見つけるといったイベントである。2020年度はモノづくりAIコース・スポーツAIコースのコース別で,それぞれモノづくり企業・スポーツ企業への訪問を実施した。この取り組みは,AIを学習できると同時に社会見学もできるため,生徒・学生に進路を具体的にイメージしてもらう点,企業側からは優秀な高校生にアピールする機会が得られる点にもメリットがあり産学双方に対して有意義な活動としてとらえている。
■ハイレベル座学
基本プログラムの内容からさらに学びを深めたい人により高度な学びを提供する枠組みとしてハイレベル座学を用意している。2020年度は希望者に提供する挙手制のプログラムを提供した。具体的にはAIの教育を行っている協力企業よりG検定取得講座を提供いただき,希望者が受講する形態で提供している。半数程度の部員が受講し,実際にG検定合格者も輩出することができた。
2021年度はハイレベル座学の内容の充実化を図っており,挙手制プログラムはプログラミングを用いたAI構築を前提としたより踏み込んだ内容のAI講座を用意し,希望者が受講している。ハイレベル座学はやまがたAI部の2年目部員をターゲットとしている部分もあり,今後も拡充・更新を計画している。
■AI甲子園
AI甲子園はやまがたAI部に参加する生徒・学生の学習成果発表の機会として用意しているイベントである。基本プログラムで学んだ内容をベースに出される課題に対し各校で活動し,AI甲子園で発表し,優秀校を表彰する,というものである。AI甲子園の課題ではデータの取得や加工,AI実装,精度評価に至るまでを高校生が実践し発表する。課題の難易度は基本プログラムの内容を軽く変更する程度でも完了できるが,こだわればどこまでも検討を深められる内容にすることを意識して設定をしている。これにより実践力を磨く。
着地点を生徒・学生が設定しなければならないため,学校によっては高度なテーマになる。そのためこの活動においては地元システム企業の協力を得て,“コーチ”を置きサポートすることで各学校がゴールにたどり着けるように配慮している。2020年度は下記課題にて実施した。
- 【モノづくりAIコース】鉋(かんな)を上手にかけるにはどうすれば良いか、AIを用いて考察せよ
- 【スポーツAIコース】自校の部活動をAIを用いてサポートし,その成果を報告せよ
- 【全校共通】AIを用いて指定日の天気を予想せよ
各校、コース別の課題と共通課題の計2テーマに取り組む。
5 “やまがたAI部”開始前の準備
本節以降では2020年度活動を,活動開始前,通常活動,甲子園の様子という3フェーズに分けて実施した内容や高校生の様子について触れていく。
2020年8月から開始したやまがたAI部だが,活動開始前の準備には様々な面に気を遣う必要があった。例えば,AI教育を高校生全体に実施しようと思うと教育委員会等との調整が必須となる。しかし高校生にとっては貴重な一年,今の高校生に学びを提供するには今スタートする必要があるという点や,興味のある高校生が気軽に参加できる環境が良いと,今回は部活動の一環(あるいは任意参加の課外活動)の枠組みとしてやまがたAI部を実施することで調整した。またこのような活動を実施するには当然高校側に理解いただくことが必須条件だが,まずは部活動とすることで高校側に負担をかけすぎないように配慮した。(それでも高校側には様々な面で負担をかけることになってしまった)。また参加校の募集を各校の校長先生へ一校一校説明して回ることで参加と理解を促し,理解をいただいた高校に参加いただく流れとなった。
各学校で気軽に参加いただく意味で,部員の学習環境の準備は特に気を使った項目であった。本来,部活動として進めるのであれば機材等は参加者負担となるのが一般的である。しかし活動で必要なPCやWifi環境を部員それぞれが用意するのでは普通の部活動と比較してイニシャルコストが高くなり,またPCをOSやSPECから選定することも慣れてないと難しくハードルになり得る。このハードルもAI初学者には無視できず取り除く必要がある考えていたため,PC・Wifiについては運営から無償で貸与する形とした。これらの検討により,意欲さえあれば参加できる状況を生徒・学生たちに提供できた。
他にも大小さまざまな課題が存在し,さらに学校社会特有の調整(テスト期間の扱い等)などでも苦労はあったが,幸いにして学校側からも前向きに協力いただけた。そのおかげもあり,初年度である2020年度は11校から合計60名以上の参加希望者が集まり,活動スタートに至ることができたのである。
6 参加校の様子
2020年度は酒田東高校や米沢興譲館高校のようなSSH(スーパーサイエンスハイスクール)指定校,酒田光陵高校や米沢工業高校のような工業系の科を設置する高校を中心に声掛けを実施し,最終的に公立高校11校が参加した。
無事活動がスタートした後は,高校生は各コースそれぞれ基本プログラムや企業訪問にてAIの概要やデータの扱い方を学んでいく。Web会議形式で講義を行っていたが,各校へ様子を毎回訪問して確認しながら進行し,高校生の様子をキャッチアップしながらフォローしていった。中には難しい内容もあり,首をかしげながら受講する高校生も見られたが,各校リーダーを中心に何とかついてきている印象であった。ネックになったのはAI構築PFの言語が英語であることと,PCを使い慣れた生徒がいない高校はPC操作で苦労をしていた。電子辞書を引きながらノートPCに向かい格闘しているまなざしは真剣そのものであった。高校ごとに多少のフォローの差異はあったが,すべての学校で無事AI甲子園のテーマに取り組み独自のAIを構築できるところまで活動を進めることができた。ハードルを適切に取り除くことでAIは高校生でも取り組めるテーマだと確信できる内容だったと考えている。
7 AI甲子園の様子
2020年度の各高校の活動成果発表の場であるAI甲子園は2021年3月7日に開催した。各校は課題に取り組んだ結果を制限時間内でプレゼンにてアピールし,審査員評価にて優秀校を決定する方式で実施された。各校ともデータ分析またはAIの構築結果を言語化しつつ実際にデータと向かい合い学んだ結果をしっかり発表しており,会場の大人たちをうならせる発表も多くみられた。
特に優秀賞を受賞した学校は,取得したデータから特徴になるデータ項目を推定するためにクラスタリングを実施し,選定したパラメータの傾向分析を行ったうえで結果予測するAIを構築・検証するという2段構えのAI検討を披露した。AIの特徴をよく生かしたアルゴリズム検討を実践し,高い評価を得ていた。他の学校についても,どうしても優劣はついてしまうが,すべての学校が独自のデータの捉え方を堂々と発表し,それぞれが独自のAIモデルによる検証結果を資料化するところまで完遂できていた。ものづくりAIコースの高校は鉋を上手にかけるために気を付けるべきポイントをそれぞれの言葉で言語化し,スポーツAIコースの高校は,部活動をどのようにAIでサポートできるか,その方法や実験結果を堂々と発表していた。天気予想は各校ともAIが導いた出力結果をもとに予想し,11校中8校もの高校が的中させることに成功させた。詳細の様子についてはYoutubeにも公開しているので興味がある方は是非ご覧いただきたい [4] 。
AI甲子園の中では各高校の代表者参加にてパネルディスカッションも行われた。その中でも全員がしっかりとAIについて語ることができており,発表を見守っていた大人からも「すごいな」という声が聞こえるほどであった。高校生の可能性を感じさせるイベントとなった。
8 企業が入り込むことの重要性と意味の考察
ここまではやまがたAI部の活動の概要について説明してきた。本節からは初年度活動を受けての考察や,今後の展望について述べていこうと思う。教育関係者ではないため教育に口を出すことに対して畏れ多いところではあるが,率直に感じた要点や高校生への期待について列挙していく。
■正解のない課題に取り組む重要性
高校生は定期的にテストがあるため,期日までに対策をして臨むことに関しては慣れている。これは常に正解がある前提なので,正解に正しく答えられるための対策をすることになる。それと比較して,AI甲子園の課題への取り組みは,正解どころか道筋も自分たちで切り開かなければならないため,まったく異質のものとなる。この点は高校生に貴重な経験を提供できたのではないかと考えている。事実,取組の中である学校は,初め「どうすればいいですか?」という質問をしていたが,活動の中で「こういう考え方はありですか?」という発言に変わっていった例が見られた。このような課題は意外と高校のカリキュラムでは少ないのではないかと思われる。正解のない課題に取り組むことで,高校生の創造性も磨かれていくものと期待している。
■学校間交流の重要性
多くの部活動は試合やコンテスト等,他校の同じ部活動に励む生徒たちと交流し刺激しあいながら成長していくものだと思うが,やまがたAI部においてもそのような関係性を築けるような仕掛けを検討している。具体的には参加校を複数のグループに分け,グループごとに活動する課題を課す等の試みを実施している。他校の文化を感じながら力を合わせ,または競い合うことで交流や知識を深めることは,より大きな成長のために非常に重要な考え方だと感じている.実際に2020年度の活動終了後に各校顧問の先生にもお声をいただいたところでは,他校との交流は好評をいただいており,教育現場でも他校との交流は貴重なものであるという捉え方のようであった.ここは第三者的に企業が関わるからこそセッティングしやすい部分もあるかと考えている.具体的にどのような効果が表れるかについては,2020年度の活動では確認できる状況までは作れなかったが,今後もどのような環境であれば交流が作りやすいか,継続して検討したい.高校生同士で教えあえるような環境まで作ることができればこの活動のレベルもまた一段上がるだろう.
■AI企業との交流による学びの深化
もちろん,AIを実際に生み出している会社のエンジニアと交流すること自体にも大きな意味がある.より専門的な知識を放課後の時間を利用して学べることや課題を解決するためにエンジニアに質問できること,また普段どのような仕事をしているのか知ることができること等も,部員にとっては生きた学び得る貴重な機会であろうと思われる.実際に高校側からは高校の情報系教員から高校生にAI知識を教えるための時間確保が難しいという声もいただいており,外部企業が教育を実施できることは高校にとって大きなメリットになっている.学校で普段学べないことを学ぶ機会があることは当然部員にとってプラスに働くことだろう。
9 やまがたAI部の課題と今後の展望
2020年度の活動を通し,有意義な点もとても多かったが課題も多かった.ここでは教育に関係する課題のうち,今後もより充実した活動にしていくために検討が必要な課題を2点共有させていただき,また今後の展望について述べる.
9-1 【課題1】評価基準の適切化
高校生の活動の道筋を示すために課題難度と評価基準の適切な設計は大事であることは言うまでもない.優秀な高校生にはどこまでも力を発揮でき,何とかついてきている高校生でもゴール地点にはたどり着ける課題設定に,優秀さを正しく評価できる評価基準が理想であるがこれがなかなか難しい.
AI甲子園においては評価基準を前もって知らせ,各校が目標と戦略を定められるようにと進めているが,2020年度は評価基準が不透明という意見が一定数出る結果となってしまった.審査員による採点評価のためどうしようもない部分もあるが,高校生が目指す方向を迷わないかつ自分たちで現在地点を測れるような採点基準である方がもちろん良い.2021年度は学校での評価基準を参考に修正を加えて運用予定であるが,数年は模索していくことが必要と想定している.
9-2 【課題2】2年目生徒向けのカリキュラム強化
2020年度に参加し,2021年度も引き続き参加しているAI部員もいるが,1年学習している分2021年度の企業訪問等でも存在感を顕わしている.1年の学びで,大人をうならせる着眼やアイディアが提案できるレベルになってきているのである.高校生の学びのレベルを上げてもらう意味合いでも,このような2年目,3年目の生徒が増えてくれることは非常にありがたいことで,ぜひ増やしていきたいと考えている.その際に,2年目生徒向けにハイレベルな内容のカリキュラムや,通年に近い活動期間で取り組めるテーマなどを設定することが,さらなるレベルアップにつなげる意味合いで重要となる.2021年度は2年目部員への配慮として,”ハイレベル座学”受講の推奨とテーマの通年化に向けた試みを実施している.2021年度の取り組み結果を見つつ上記2項目の継続および2年目以降の生徒が定着するためのプログラムの追加について今後も検討を想定している.
9-3 【今後の展望】
今回は2020年度の取り組みを中心に内容の共有をしてきたが,今後はいかにして持続可能な取組にしていくかという事が課題になってくる.資金面,受講環境面の充実および顧問の負担,運営の負担,高校生の負担の軽減等の対策を毎年盛り込んでいきながら学びの質を高めていくことが必要となってくる.特に受講環境面は,2020年度の活動当初も通信環境やPCの設置状況について当初想定していたよりも整備が進んでおらず,また聞いていた都心部の学校での環境との差異も大きいことに驚いた.この差異を目の当たりにし,AI/デジタル技術の教育は特に都心部よりも地方を中心に推し進めることが日本のデジタルスキルの底上げには効果的であろうと考えている.
やまがたAI部は今後も変わらず”若年層AI人材の継続的な輩出”を目指していくが,上記課題を毎年少しずつクリアしていきながら,参加校を山形県全土に広げていきたいと考えている.そして「AI/デジタルと言えば山形」というブランディングが完成し,その時にこの活動が山形県のGDP向上に寄与できていれば我々のミッションも達成できることになる.このような姿を目指し,当面はこの「AI/デジタルと言えば山形」実現のための地盤を着実に築いていくことを想定している。
10 結言
本稿ではやまがたAI部の内容およびその実施結果について考察を交えながら解説してきた.2020年度の活動を通し,高校生が見事にAIを構築し,活用することができたことを簡単に紹介させていただいた.どうしても難しい理論やプログラミングが前面に出てきてしまうAI技術だが,AIを広げていくうえではこういったハードルを取り除くことが肝要であり,適切に取り除くことができればAIは高校生でも取り扱いが可能であることを証明できたと考えている.
繰返しになるが,本活動の目的は”デジタル人材の創出による山形県のGDP向上,および日本のデジタル競争力UP”と設定している.初年度の活動結果から高校生への教育については手ごたえを感じつつある.これを種火にまずは山形県内へAI/デジタル技術の教育を広げていき,高校生・企業が横並びにAI/DXに前向きに取り組むことで山形県内のAI/デジタル技術の底上げにつなげていくことを今後推し進めていく.やまがたAI部の卒業生がそのリーダー的存在として活躍しAI/デジタル技術推進を加速し,日本を引っ張っていけるようになればこの上ない成果であると考えている.この理想型に少しでも近づけられるように,今後とも尽力していく所存である.
謝辞
2020年度のやまがたAI部を無事完遂し,本稿にて紹介できているのは,やまがたAI部運営コンソーシアム加入企業・団体をはじめ,特別カリキュラムやコーチの対応をいただいている協力企業,大学関係者の皆さまのご尽力および参加高校の皆さまのご協力があってのものである.この場を借りて深く御礼申し上げ,感謝の意を表する.
参考文献
[1] “第1部 第1章 デジタル化の現状と課題”; 情報通信白書, 総務省, 2021, p.63, https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/pdf/n1100000.pdf,(2021-12-01 参照).
[2] “令和3年 情報通信白書のポイント”, 総務省, 2021, p.2, https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/pdf/01point.pdf, (2021-12-01 参照)
[3] “消費動向調査 令和3年3月実施調査結果”,内閣府経済社会総合研究所, 2021, p12, https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/honbun202103.pdf, (2021-12-10参照)
[4] “やまがたAI甲子園【ライブ配信】”, やまがたAI部, 2021, https://www.youtube.com/watch?v=DTw30rZdGoU, (2021-12-10参照)
本稿は一般社団法人システム制御情報学会『システム/制御/情報/66 巻 (2022) 6 号』にて掲載されたものです。
AIを扱える高校生を育成する「やまがたAI部」のご紹介 (jst.go.jp)
著者
野澤 道直 (MICHINAO NOZAWA)
2011年3月東北大学大学院工学研究科
電気・通信工学専攻 博士前期(修士)課程修了。
2019年6月より現職の株式会社O2に入社しコンサルティング業務に従事。
やまがたAI部へは立ち上げ初期の2020年より参画。