【第1回前編】きづきアーキテクト代表・長島聡
- 対談連載『リーダーのアタマのナカ』
目次
AI時代を生きるコンサルタントが「やるべきこと」と「やめるべきこと」
オーツー・パートナーズの代表取締役社長 松本晋一が日本の製造業を元気にしたいという志を持つ各界のキーマンにインタビューする対談連載『リーダーのアタマのナカ』。今回ご紹介するのは、きづきアーキテクト代表の長島聡氏。2022年よりオーツー・パートナーズの社外取締役として参画しています。今回は、長島氏が考える、これからの時代のコンサルタントや日本の産業界の未来についてお話を伺いました。
日本の伝統文化や職人技が、これからの産業の道しるべ
松本:長島さんは、2020年までヨーロッパを代表する戦略コンサルティングファーム、ローランド・ベルガーの日本代表を務められ、現在は、自ら立ち上げた「きづきアーキテクト」の代表として活動されています。こちらは、どんな会社なのでしょうか?
長島:私は、ローランド・ベルガーにいた頃から、“仲間企業”という取り組みに力を入れていました。このときの活動を広げてつくった会社が、きづきアーキテクトです。コンサルタントにはない能力を持っている人や、各分野のスゴ腕を集め、「この人たちと組めば面白いことができますよ」と、クライアントにさまざまなプロジェクトを仕掛けてきました。
ローランド・ベルガー時代から、仲間企業の取り組みには手ごたえを感じていました。しかし、中には収益化がむずかしい分野もあり、当時の枠組みの中では実現できない事案も多かった。私としては、もっと異なるジャンルの仲間を増やして、自由に面白いことをやりたい!という想いが強かったので、起業という道を選びました。きづきアーキテクトを立ち上げてから分かったのは、収益になりにくい分野にこそ、面白いものや大切なものが眠っているということ。こういうものが、10年後の日本にとって大事なものになってくるはずだと考えています。
松本:長島さんが起業を決意した背景には、まだ注目されていない分野に光を当てて、価値を高めることに貢献したいという想いがあったのではないかと感じていました。
長島:そうですね。あとはグローバル企業にいると、どうしてもクライアントとの距離が離れてしまい、直接触れ合えない仕事が増えてくるんですよ。
松本:それが嫌だったんですね?(笑)
長島:だいぶ嫌でした(笑)。クライアントと直に触れ合いながら、新しい価値を生む仕事をしたい、と思っていましたから。
松本:長島さんは、日本の伝統文化や職人が持っている価値を伝えていくことが、日本の将来のために必要だとよくおっしゃっていますよね。それは、なぜでしょうか?
長島:日本の伝統文化や職人技は、世の中に迎合したものではなく、自分たち自身で突き詰めてつくりあげてこられたものです。これって、すごく“尖った”魅力がありますよね。私は、そういう“尖った”ものとの組み合わせが、これからの日本の産業界に必要だと考えています。伝統芸能や職人技に触れてみると、「尖っていてもいいんだ」という気持ちになれる。そういう空気が産業界に浸透していけば、新しいものが生まれてくるでしょう。
社外取締役を引き受けた理由
松本:長島さんが、当社の社外取締役を引き受けてくださった理由を教えてください。
長島:私が仕事を受けるかどうかを決めるときに大切にしているのは、面白い仕事になりそうか、志の向きが同じかどうか、ということです。オーツー・パートナーズさんは、松本さんをはじめ、設計から開発、生産技術出身の凄腕エンジニアがいて……。多様性があり、いろいろな立場の人が活躍している様子が、すごく面白そうだなと思いました(笑)。そしてみなさん、語り切れないほどの夢があって、日本の製造業を元気にしたいというビジョンを持っている。そういう感じが好きでしたね。普通のコンサルティング会社と同じことをやろうとしているなら、社外取締役のお話は受けなかったでしょう。
松本:いじりがいがあるというか(笑)、プロデュースしがいがあると感じていただけたんですね。
長島:そうそう。この人たちの組み合わせがうまくいって、それぞれ力が発揮できるようになれば、そうとう面白い会社になるだろうと。この組織の中に入りこんで、化学反応を起こしたいと思いました。
クライアントと二人三脚で、新しい価値をつくる
松本:コンサルティング会社は、これからどうなっていくべきだと思われますか?
長島:まず、調査だけの仕事は、もうやめたほうがいいと考えています。そうではなく、先に目的がほしいですよね。「これを実現したいんだけど、うまくいくかな」みたいな。
松本:なるほど。単なる調査を目的とした仕事は、今後なくなっていいと?
長島:そうですね。日本の生産性が低いと言われるのは、ずっと調査をしているせいだと思うんですよ。一歩でも二歩でもいいから、実際に踏み出さないと分からないことも多い。だからコンサルは、「そろそろ売上につながることをやっていかないとダメですよね」と、クライアントにはっきり言えるようになるべきですよね。
松本:調査のような仕事がなくなる分、コンサルタントがやるべき仕事とは、何でしょうか?
長島:それが、「クライアントと一緒に新しい価値をつくっていく」ことです。日本企業は、まだそういったことに不慣れですから、私たちがアイデアのたたき台を提示して、話し合いを重ねて、「こうやればできるよ」と背中を押す。そして、彼ら自身が新しい価値をものにしていく過程をサポートするのです。これからのコンサルは、そういう存在になるべきです。そうしないければ、日本の産業界が衰退していってしまいますよ。
自分にないものを持っている人と組んでみる
松本:そうですよね。日本の企業は、戦後から必死で走って「成長」を遂げてきました。でも、いまだにそこから抜け出せず、「成長」はしても「進化」はしていないのが、今の状況です。これからのコンサルタントの役割は、「進化」のお手本を見せることなのかなと思いました。
長島:とはいえ、戦後の日本も、新しい価値にトライしていた時期はありました。ソニーがウォークマンを世の中に送り出してきたときなどは、頑張っていましたよね。ただ、徐々に製品が多機能化し、熟成しきってからは、「もうこれ以上はできない」と、効率化に舵を切った感じがしています。そうしたあきらめのような雰囲気が、隅々まで蔓延してしまったのかもしれません。
松本:効率化を推し進めた結果、今のような状態になってしまったと考えると、むしろ効率化は考えないほうがいいのでしょうか?
長島:効率化を求めてもいいですが、「何のために」という目的が先にほしいですよね。たとえば、100人でやっていた仕事を90人にするというなら、減った10人をどんなことに使うのか、と問いたいです。「新規事業を立ち上げるために10人ほしいから、残り90人でも今までのクオリティを保てるような状態にしたい」とか、そういう目的なら、人を減らして効率化することにも意味がある。でもコストカットのためだけに従業員を減らすことに、賛成はできません。
松本:それは同感です。でも、そういうふうに全体を見据えた提案ができるコンサルタントって、案外少なくないですか?
長島:そうですね。最近のコンサルタントは全体を見るというよりは、「技」を身に着けた人の比率が上がってきていますね。分析が得意だとか、コストカットのプロとか、BPRは任せておけとか……。その特化した能力を否定はしないし、得意分野を持っていることはすばらしいです。でも、そういう人はタスクスペシャリストになりがちです。特化した能力を持っている人とどう組むか。その人を面白いと思えるかどうか。クライアントの現場から経営まで、全体を見られる人と組むべきだと思います。
松本:なるほど。「得意な人と組んでやってみよう」というマインドを持つ必要がありますね。
長島:そうです。全てを理解しろとはいいません。「この人と組んでやれば、もっと貢献できる」と思えるかどうかが大事ですね。
(後編へ続く)